真空に関するよくある疑問、質問を掲載しております。「もっと詳しく知りたい」という方は、こちらをご覧ください。
真空とは?
JISによって、「大気圧より低い圧力の気体で満たされている、特定の空間の状態」と定義されています。「真空」とは真の空(カラ)だから何も無い状態のことであると、しばしば考えられます。これは「絶対真空」と呼ばれ、圧力は0(ゼロ)Pa(パスカル)となりますが、未だ確認できていない(実際にはあり得ない)状態で、理論上の概念です。たとえば、1気圧(105Pa)の空気には、1リットル当たり268兆×1億個という途方もない数の分子が含まれていますが、10-11Paという極高真空でも約270万個の数の分子が残っています。いずれにしろ定義上は、平地の2/3気圧程度の富士山頂も、約1兆分の1気圧の月面も、同じく「真空」と言われます。そして、その真空状態を地上でつくり出すためには、密閉された容器の気体を、何らかの方法で強制的に排出し、大気圧より低い圧力状態をつくる必要があります。その手段として、真空ポンプが用いられるのです。気体の状態は、大気圧よりも高いか低いかに関わらず、温度と圧力によって表されます。圧力の単位は〔力/面積〕の次元を持ち、SI単位系では〔N/m2=Pa:パスカル〕※1が基本。従来、真空の状態を表す圧力単位として〔Torr=mmHg〕が使われていましたが、宇宙空間の工学的利用に伴い、工学系単位と共通性を持たせるため、〔Pa:パスカル〕が使用されるようになったのです。工学系単位では、大気圧状態を基準〔圧力=ゼロ〕にして圧力表示(ゲージ圧)※2することが多いのですが、真空系では、絶対圧による表示が分かりやすいのです。密閉された空間では、どんなに圧力を下げても気体分子が全く無くなることはないので、絶対圧力はゼロに限りなく近づくとしても、ゼロになることはほとんど不可能に近いのです。これをゲージ圧で表すと非常に分かりにくい数値になります。
- ※1 1kgf=9.8N(ニュートン)
- ※2 圧力容器(ボイラ、ガスボンベ)など
真空ポンプとは?
真空ポンプとは、ある閉じられた空間を、大気圧より低い状態(真空)にするために使われるポンプのことです。現在、多種多様な真空ポンプが市販され稼動していますが、一種類の真空ポンプで大気圧から超高真空の圧力範囲までカバーできるものはまだありません。それぞれ到達可能な圧力や動作上限圧力、排気速度などが異なるので、目的、用途などによって使い分ける必要があります。現在、市販されている真空ポンプは、大きく「気体輸送式真空ポンプ」と「気体溜込式真空ポンプ」に分けられます。後者にはクライオポンプ、ゲッターポンプ、ソープションポンプ、スパッタイオンポンプなどがありますが、より一般的な「気体輸送式真空ポンプ」は、以下のような種類に分類されます(表1参照)。また、密閉容器から気体を排出するには、吸入口から入った気体に、回転あるいは往復運動をかけて圧縮し、排出しなければいけません(容積排気型)。ただし、これは低真空で気体密度がかなり大きい範囲(粘性流領域)の場合は有効ですが、高真空で気体密度が小さく、気体分子同士が衝突しない範囲(分子流領域)の場合では、気体分子を個別に排気する別のメカニズムを利用した真空ポンプが必要になります(表2参照)。それが、油拡散ポンプ、あるいはターボ分子ポンプと呼ばれるものです。油拡散ポンプでは、油を加熱して油蒸気を作り、ノズルから高速で吹き出すジェット流で気体分子を同伴して低真空域まで圧縮します。ターボ分子ポンプは、高速回転(3000~10000回転)する羽根車が、気体分子を低真空域まではじいて圧縮し排気します。吸入口で高真空域でも排気口では低真空域なので、高真空排気ポンプでは、排気口に補助ポンプとして低真空排気ポンプ(油回転ポンプ、ドライポンプなど)を接続し、排気しているのです。
- ※1 水封ポンプの作動圧力範囲:大気圧(100kPa)~2.3kPa
温風乾燥と真空乾燥の違いとは?
日常的に利用される乾燥は『温風乾燥』と呼ばれ、より早く乾かすためには次の3つの条件が必要です。①「乾燥する物の温度が高い」②「風が吹いている」③「大気の湿度が低い」。乾燥の良し悪しは(水で濡れた物の乾燥に限った場合)、表面と風との水蒸気分圧差(又は濃度差)によって決まります。表面温度が高いほど、または乾燥風の湿度が低いほど、水蒸気分圧差(濃度差)は大きくなるのです。上記の3つの条件は、この水蒸気分圧差を大きくするための要素に他なりません。しかし、物を乾燥する時に水分の蒸発潜熱により、物の温度は下がります。表面の水蒸気分圧は下がって、風との水蒸気分圧差は小さくなり、乾燥しにくくなってくるのです。図1のモデル図で示すように、晴れていれば太陽光が洗濯物を暖めてくれるので何ら問題はありません。工業的に利用する装置では、温風が乾燥物に熱を供給するかヒータで暖めるかして、温度低下を防ぎ、より早く乾燥するように工夫するのが一般的です。しかし、これは物の表面に付着した水分を乾かす場合です。スポンジのように多孔質で、内部まで水がしみ込んだ物を乾かす場合は、内部の水が表面までにじみ出て、表面から蒸発するのを待たなければならず、乾燥完了までに長い時間がかかることになるのです。一方、乾燥物を密閉容器に入れ、乾燥の条件である水蒸気分圧差を人工的に大きくするために、真空ポンプで減圧排気する方法を『真空乾燥』と言います。たとえば、表面温度が25℃の物を、30℃、50%湿度の温風で乾燥する場合と比較すると、真空乾燥の方が1/3の時間で乾燥します。図2に示すように、真空乾燥は密閉された容器の中でおこなわれるので、温風乾燥のように太陽光や温風からの熱供給は期待できません。水分蒸発に伴う乾燥物の温度低下を防ぐために、何らかの加熱法が必要になってくるわけです。そのために、次の3つをおこないます。①「容器内に入れる前に温度を上げておく」②「容器全体を暖めて、幅射熱で乾燥物を暖める」③「容器内のヒータ板上に乾燥物を置き、熱伝導で暖める」。真空乾燥では、狭いすき間あるいは細管内部まで強制的に減圧されるので、すき間内の水分がより早く蒸発します。また、乾燥物内部の温度が極端に下がらない限り、突沸現象で、狭いすき間に閉じ込められた水分が吹き出すこともあり、乾燥をより促進するのです。このように真空乾燥では、真空ポンプが蒸発水分を排気するのに十分な容量を持っていれば、多孔質性あるいは粉末状の物でも内部まで均一な乾燥を実現できるのです。しかし、多孔質性の内部まで均質に乾燥が可能であることや、温風乾燥より早く乾燥ができるなどの利点はあっても、乾燥速度は、蒸発によって奪われる熱量と供給される熱量が平衡する温度によって決まります。特に、多孔質体や粉末状の乾燥物で材質の熱伝導率が小さい場合は、前述の加熱法によっても表面温度は上昇しますが、内部温度は上がらず中心部の乾燥が遅くなる場合もあります。したがって、熱伝導率の小さい材質で多孔質体の物を乾燥する場合、真空乾燥であっても表面は乾燥しているが、内部の乾燥は完了していないということもあり得るのです。